- 2007-10-15
- 2006 Laos & Hanoi
雑木林を抜けると、視界が一気に開け、いっそうまばゆい光と鮮やかな色に包まれた。左右には緑の田んぼがさあーっと広がっている。正面には、やや西に傾いた太陽が衰える気配も見せず、強烈な熱と光を放っている。バンビエンの村からも望むことができる奇怪な山々との距離もいつの間にかぐっと縮まり、予想外の迫力でそびえている。
道ばたに自転車を止めて眺めを楽しんでいると、学校帰りの子供たちがやってくる。緑の稲穂の波を、白い制服が行き交う。まぶしく、どこか懐かしい。
再び自転車にまたがった。目の前を、制服を着た二人の子供が歩いている。兄弟かもしれない。自転車にも、トラクターにも乗らない。ぼくたちは元気に仲良く歩いて下校中、というような、たくましく、そしてほのぼのとした雰囲気が背中から伝わってくる。
二人の横を通り過ぎようとすると、大きい方の男の子が、待ってましたとばかり、ぼくの自転車の後ろに飛び乗ろうとするではないか。おいおい、なにするんだよ。そう叫びながら、危ないのでいったん自転車を止める。ちゃっかり飛び乗る少年。せっかくそのけなげな姿に感心してやったところだったのに。しょーがねーな、乗せてやるけど、ちょっとだけだぞ。
楽ができるお兄ちゃんはニンマリ。弟のほうはといえば、小走りでぼくの自転車を懸命に追いかけてくるも、やがてあきらめ、トボトボと歩き出した。かわいそうだから、もう少し走ったらあの子も乗せてあげないと。しかし、後ろにしがみついているお兄ちゃんは、いったん獲得したシートを譲る気はさらさらなさそうに見える。
正面から、陽射しがじりじりと照りつける。容赦のない照射を浴びながらペダルを回していく。でこぼこの砂利道は、行けども行けども続いている。兄弟の家はいったいどこなのだろう。心配になって後ろを振り向くと、小さい弟は別の旅行者の自転車にちゃっかり乗って追っかけてくるではないか。弟もなかなかやるなあ。
まったく、ずるしやがって。最初はそう思っていた。が、こんな厳しい暑さの中、毎日毎日この子たちはこんなにも長い距離を歩いて往復しているのだ。ときどき観光客の自転車の助けを借りたって、ばちはあたらないだろう。
何分くらい走っただろうか。突然、「ここで降りる」というようなジェスチャーをお兄ちゃんが見せた。こんなところで? 見渡してもあたりに家は見あたらない。右側は草むらの斜面になっているし、左側には牛が放たれているだけだ。とにかく、言うとおり自転車を止めた。少年は黙って自転車を降りた。
別れ際、なんとはなしに少年に向かってカメラを構えた。突然のことでやや緊張気味の表情を見せている。けれども、緊張をほぐすような言葉は、あえて口には出さなかった。今のこの引き締まった表情のほうが、彼のたくましさをよく表しているような気がしたからだ。
そのまま、黙ってシャッターを切った。
じゃあ。お互い軽く手を振り合った。少年は道を外れ、草の斜面を黙々と登っていった。
来た道へと視線を動かすと、遠くから弟がゆっくりと近づいてくる。
それを確認すると、再び自転車にまたがった。
砂利道は、まだまだどこかへと続いている。